コラム
2025.05.16
~葬儀業界“大再編”への挑戦~ 地域・社員・事業を支える新たなM&A戦略【ネクストフューネラルラボ(NFL) 第1回勉強会イベントレポート】

1.開催概要
葬儀業界の未来を実践的に探究する新プロジェクト「ネクストフューネラルラボ(NFL)」第1回勉強会が、2025年4月23日、東京都千代田区・丸の内テラスで開催されました。LDT株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:白石和也)が主催し、葬儀業界のM&Aや事業承継、再編をめぐる動向を共有。全国各地の葬儀社や関連事業者、コンサルタントら約40名が一堂に会し、企業価値向上や地域社会との関係構築について活発な議論が行われました。
少子高齢化が急速に進む日本では、年間死亡者数の増加と労働人口の減少が同時に進行し、従来の高単価葬儀や人的サービスのモデルが成り立ちづらくなる可能性があります。こうした背景下で、近年は大手やファンドによる葬儀社買収が加速し、業界再編の波が一層顕著になってきました。勉強会では、複数の講演やパネルディスカッションを通じて、葬儀業界が直面するM&Aの実態や事例、再編に伴う課題について分析がなされました。
2.講師およびプログラム
- LDT株式会社 代表取締役 白石和也
- LDT株式会社 社外取締役 渡部恒郎
- 株式会社船井総研あがたFAS 取締役執行役員 光田卓司 氏
葬儀社や周辺業界で進むM&A、事業承継、地域との結びつきなどが主なテーマとなり、各登壇者の基調講演後にはパネルディスカッションも行われました。
3.基調講演1:LDT株式会社 代表取締役 白石和也
(1)M&Aポリシーと買収実績
白石は、創業期に東京都内の葬儀社を買収し、葬儀社をグループ化していくことを検討したものの、最終的にはAgetech(※)領域での買収にシフトして事業拡大を図ったと説明しました。医療・介護関連の人材紹介や介護関連事業などAgetech領域の企業をM&Aによりグループ化している事例を紹介しました。
※Agetech(エイジテック)
高齢化社会で生じる “暮らし・健康・介護・社会参加” にまつわる課題を、デジタル技術で解決・軽減しようとする製品・サービスの総称です。
(2)シニア領域への拡大と業界動向
LDTでは、葬儀にとどまらず、相続・介護・医療などシニアライフ全般を視野に入れ、「やさしいお葬式」や「スマート葬儀」「スマート葬儀ジョブ」など周辺サービスも展開。少子高齢化で死亡者数が増える一方、労働人口の減少や家族葬の普及で単価が下がり、効率的なオペレーションが不可欠との認識を示しました。また、約7000社ある葬儀社のうち、会館保有は3000社程度にすぎず、将来的に4~5社へ再編される可能性を指摘しています。
(3)将来の選択肢と事業承継
買収されるか、自ら他社を買収するか、地域企業同士で合併するか――葬儀業界には多様なシナリオがありうると述べました。自社は葬儀社単体を増やす路線から早期に撤退し、周辺領域に照準を移すことで売上拡大を実現したと報告。こうした実例を踏まえ、今後、事業承継やM&Aを検討する葬儀社は、いかに自社の強みを活かし、柔軟に戦略転換するかが重要だと話しました。
4.基調講演2:LDT株式会社 社外取締役 渡部恒郎
(1)大手企業による買収と拡大手法
企業価値向上のために買収を積極活用する大手企業のケースを紹介し、既存の弱みを補う周辺事業を取り込む戦略や、増資との組み合わせで高成長を目指す方法があると示しました。
(2)経営者・社員・地域への配慮
買収前の調査や社員への説明を怠ると、信頼失墜や大量離職といったリスクが表面化するため、事前協議や後継者選定が欠かせないと警告。社員教育や経営方針の共有を徹底することで、長期的な安定を図る必要があるとしています。
(3)売却額と事後運営のバランス
売却額ばかり追うと、買収後に社員の待遇改善が難しくなる懸念があるため、適正価格の設定と明確な運営計画が求められると説明しました。
5.基調講演3:株式会社船井総研あがたFAS 取締役執行役員 光田卓司 氏
(1)買収事例の増加背景
家族葬による単価低下や後継者不在の問題が重なり、投資ファンドや上場企業による葬儀社買収が増えていると報告。規模の拡大や広告宣伝の強化によるメリットはあるものの、地元との結びつきをどう維持するかが課題とされています。
(2)分業とDXによる生産性強化
一人一担当制だけでは今後の低単価化に対応しきれないとの見解を示し、コンタクトセンターやITツール導入などの分業体制を提唱。人材不足の中でも、地域ニーズに合わせてサービスを提供できる仕組みづくりが鍵と述べました。
(3)チェーン展開と地域密着
複数の会館や式場をチェーン展開し、広告やオペレーションを標準化する一方で、各拠点が地域に根ざしたサービスを続ける必要があると強調。地域住民やスタッフに配慮した運営を行うことで、再編期を乗り越えやすくなるとしています。
6.パネルディスカッション:生き残り戦略とオペレーション改革
司会の進行のもと、「生き残るための具体的な戦略は何から始めればいいのか」というテーマが最も関心を集め、出店計画やマーケティング方法の刷新、社員教育など多角的な意見が交わされました。業務効率化を実現するだけでなく、現場の丁寧なパフォーマンスや地域との強い結びつきが今後のカギになるとの認識が共有されています
7.参加者の声
十全社(千葉県) IT部門責任者 戸波隼 様
「専門的な視点と広範な一般論を同時に把握できた点は、極めて有益でした。業界特有の土地性や独自性が存在する一方で、家族葬の普及に伴いサービスの汎化が進み、大手事業者が参入しやすい構造が顕在化しています。将来的に業界が四〜五社へ集約されると予測される流れについては、M&Aが及ぼす影響を精査する必要があると考えます。また、地域固有の強みを最大限に活用しつつ、大手とは異なる差別化戦略を構築することの重要性が、特に印象に残りました。」
セレモニー宝典(栃木県) 代表取締役 荒井貴大 様
「葬儀業界における主要論点の一つはM&Aであると以前より認識していましたが、改めて規模の重要性を実感しました。広告宣伝のみで競争を勝ち抜くことは困難であり、地域に根ざした強みをいかに活用するかを検討すると同時に、将来的にはM&Aを視野に入れた経営戦略が不可欠であると考えています。接客品質および人材面における独自性を深化させつつ、必要な変革を推進して参ります。」
8.まとめと展望
少子高齢化や直葬の拡大、労働力不足といった構造変化に直面する葬儀業界では、従来の高単価ビジネスモデルや一人一担当制だけでは対応が難しいとの見解が示されました。M&Aなどによる企業再編が加速するなかで、社員や地域への配慮、システム導入を含めたオペレーション改革、そして新規出店などの戦略が多角的に必要とされています。今回の勉強会を通じ、葬儀会社や関連事業者が共通認識を深める場となったことは、業界の持続的な成長のために意義深いものといえます。
次回開催情報
テーマ
「M&A時代を生き抜くための財務戦略」
日時
2025年7月下旬
講師
株式会社エンディング綜研 代表取締役 小泉悟志 氏
株式会社イニシャルステート 代表取締役 北山洋樹 氏
会場
詳細決定次第、公式サイトにてお知らせします
LDT株式会社が主催するネクストフューネラルラボ(NFL)は、今後も勉強会の開催を予定しており、さらに実践的な手法やノウハウが共有します。葬儀業界の将来を見据えて関心をお持ちの方は、公式サイトの最新情報をご確認ください。
<お問い合わせ先>
LDT株式会社NFL運営事務局 担当:有馬・島津
TEL:03-5843-8505 Mail:pr@le-tech.jp