コラム
2025.01.20
職員と高齢者の未来を「託す」という決断:M&Aで事業成長を目指す【株式会社ケアプロデュース】
代表取締役
安藤滉邦
略歴
大学卒業後、某商社にて勤務。介護保険導入前より、老人ホーム運営会社に転職。
その間、入居相談員、入居相談室室長、施設長(立ち上げ、建直し、施設長指導を含む数箇所の施設長を経験)、施設運営の統括、施設運営マニュアル作り等、多岐にわたる経験ののち独立。
現在は、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の紹介・案内事業、成年後見、身元保証、高齢者の住まい選び専門員養成講座の講師など高齢者の総合相談を行っている。
Q.御社の創業の経緯を教えてください。
創業のきっかけは、小学2年生の頃です。
代々自営業を営んでいる父から、夏休みのある日「家は長男が継ぐから、将来は独立して生活しろ」と言われ「いつか社長になる」という目標を持ちました。
大学卒業後は起業するために必要な会社を考えた結果、ノンバンク系商社の融資部門に入社し直接、経営者と決算書について話し合うなど約12年間、実務経験を積みました。
その後、バブルが崩壊し金融機関が大打撃を受けるなか、方向転換を考えるようになりました。そんな折、社会福祉法人の理事長に「5年後、6年後には『介護保険』という社会制度ができる」と教えてもらったんです。
高齢者マーケットで勝負することが起業のチャンスだと考え、介護の分野に飛び込みました。
介護保険が導入される前に、民間の老人ホームの会社へ就職しました。それから2年ほど経った2000年から介護保険が始まったんです。
入社した当時の従業員は300人ほどでしたが、おかげさまで入社5年で執行役員に昇進でき、従業員数も4,000人まで増え、20棟の管理を任されていました。
しかし、24時間対応の働き方に限界を感じてしまい、従業員への負担も考え別の事業を考えるようになりました。
次に、営業職の経験を活かし「紹介ビジネス」に目を向けるようになりました。ちょうど2000年から2004年頃にかけて、紹介ビジネスの業界が少しずつ登場し始めた時期でしたので、追い風に乗って起業を決意したんです。
ただ、当時は「紹介料を払う」という文化は浸透していなかったため、最初の2年間は老人ホームの立ち上げコンサルティングと並行しながら事業を進めました。
Q.御社の事業内容と強みを教えてください。
事業内容は大きく分けて「老人ホーム紹介事業」と「訪問マッサージ事業」の2つを軸としています。
老人ホーム紹介事業の強みは、高齢者が老人ホームに入る際の財産や不動産の管理など周辺領域にも対応できることです。
私は常々「『最後』とは、お身体を納骨するまで。財産は相続完了まで」と言っています。
老人ホームに入ってすぐにお墓というのは、イメージがつきにくいかも知れませんが、人の最後というのは、お墓に入って相続の完了までが一つの区切りだと思っています。最後まで関わる事業をやりたいと、ずっと考えていたんです。
もう一つが訪問マッサージ事業です。
医療保険での訪問サービスには、訪問診療、訪問薬局、訪問歯科、訪問マッサージの4種類がありますが、株式会社として事業化が可能なのは、訪問薬局と訪問マッサージです。
このなかで、訪問マッサージに着目し、会社設立から5〜6年後に立ち上げました。
また、介護保険ができた2000年からこの業界に、20年以上携わっており、長年の経験で培った知識やネットワークなども弊社の大きな強みと思っています。
Q.どのように事業を展開・拡大されてきたのでしょうか。
事業拡大のポイントは4つあります。
1つ目は、世田谷区にこだわって事務所を持ったことです。
理由は、世田谷区が人口が多く、高齢者の所得層も高い地域だからです。
また、老人ホームは住宅地にあるため、ビジネス街に事務所を構えても、最終的には施設の見学に同行しなければなりません。23区内で老人ホームの数が一番多いのが、世田谷区だったのも理由です。
2つ目は、「サービスの見える化」を重視したことです。
たとえWebから問い合わせを受けたとしても、最終的には相談を受ける職員の知識や経験が重要です。
パンフレットに書かれた情報だけでは伝わりにくい部分を、お客様に明確に言葉でお伝えする必要があるからです。
私は、相談を受ける職員は、老人ホームへの入居を悩んでいる方の背中を押す役割を担っていると考えています。
3つ目は、Webサイトの構築に早い段階から取り組んできたことです。
4つ目は、老人ホーム紹介のフランチャイズや代理店制度を活用してきたことです。
本部機能を有しつつ、個人で始められる仕組みを作り、老人ホームの紹介を本業にプラスアルファの収益として展開できる形にしています。
一般的な紹介事業だけではなく、フランチャイズ展開を進めることが、他社とは異なる強みだと考えています。
Q.譲渡をお考えになったきっかけや背景、経緯を教えてください。
この3年間、コロナ禍の影響で新たな戦略や挑戦ができない日々が続きました。
その間に私自身も年齢を重ね「最後に何か新しいことをしたい」と考えつつも、戦略が打てないまま時間が過ぎてしまったんです。さらに、コロナ禍が明けると、ネット環境で人が動くようになり、業界も一気に変わってしまいました。
また、労働人口の減少で思うように採用できない背景もあります。
毎月、3〜5人ほどの求人が来るものの、なかなか人材を確保できない状況です。
実は12、13年前に、介護事業を譲り受けたのですが、職員の採用がうまくいかず、最終的に1年で事業を引き継いで頂いた経験もあります。
さらに後継者の課題もありました。営業担当者が一人前になるには、最低でも2年、平均で3年は必要ですが、私自身も年齢を重ね十分な時間を確保できませんでした。
そういったことから、会社の譲渡を考えはじめるようになりました。
Q.ご検討を進められる上で、大事にされていた希望条件を教えてください。
希望条件として重要視したのは、職員の幸せです。
弊社の経営理念には「健康で穏やかな暮らし」や「未来」という言葉が含まれています。それを実現できる職場環境を確保することが、最大の希望条件でした。
次に重視したのは、シナジー効果が得られること。
私たちの会社名「ケアプロデュース」にもある通り、「介護をプロデュースしていく」想いがあるため、譲渡先との間にシナジー効果がなければ、新しい挑戦に踏み出せないと考えていました。
シナジー効果が得られることで売上が増加し、職員がさらに幸せになれるような形になることを条件に、譲渡先を選定しました。
Q.最終的にLDT(株)(買手)へのご譲渡を決断されましたが、LDT(株)(買手)の印象 や譲渡を決めた理由を教えてください。
LDT社は、葬儀業界に取り組み納骨までをサポートするAgeTech領域のビジネスモデルを掲げています。この方向性は、私が以前から目指していた「人生の最後まで支援する」というビジョンと一致していました。
また、AgeTech領域で上場を目指す過程で、弊社の資産や情報は相乗効果を発揮できると確信したのも判断材料として大きかったです。
もう一つは、白石社長の若さです。
社長が若いとスピード感もあり、時代の流れを的確に掴めます。
私は「託す」という言葉をよく使いますが、白石社長の想い、考え方、方向性に対し決断し会社を託したというのも理由のひとつです。
AgeTech領域は、非常に魅力的な分野ですが収益化に時間がかかります。10年、20年のスパンで考えると、LDT社に託すのが最善だと考えました。
Q.今回のM&Aで期待することや今後のビジョンを教えてください。
これを機に、AgeTech領域により積極的に進出していただきたいです。
具体的には、これまでリアル集客が中心だった部分をWeb集客に転換し、さらに入居相談から紐づく相続や不動産分野にも、取り組み高齢者の穏やかな暮らしを支えて欲しいと願っています。
また、ケアプロデュースを再スタートさせる、いわば「新生ケアプロデュース」を作り上げて欲しいという想いもあります。M&Aをきっかけに新たな事業展開を進め、さらなる発展を期待しています。
Q.譲渡を検討されている経営者様へアドバイスをお願いいたします
事業譲渡には、時間がかかるという点です。
実際、案件化してから売却するのに平均9ヶ月かかります。準備や交渉を含めて早めに検討するのが良いと思います。
もう一つは、自分で立ち上げた会社は、後継者を作る。もしくは身を引くときも自分で決断するのが、経営者の仕事だということです。それが今回、M&Aという形になったということです。
会社を経営者個人のものと考える社長は、決断しにくいかも知れませんが、会社は法人として独立して存在しているため、経営者が代表者として役割を果たしつつも、冷静に判断を進めることが必要なのではないかと思います。
最終的には、ご縁があって譲渡先と巡り合えるものです。経営者としての役割を全うしつつ、会社が次のステージに進む道を考えることが大切だと考えています。
M&Aの概要
株式会社ケアプロデュース(本社:東京都港区、代表取締役:安藤滉邦)
有料老人ホーム・グループホーム・高齢者住宅等の紹介事業
治療院の運営
高齢者の訪問診療サポート事業
高齢者の住まいと暮らしの情報誌の発行
介護・介護施設の開設・支援等のコンサルティング
在宅・訪問診療の開設・支援等のコンサルティング
を展開。
2025年1月7日に、AgeTech(エイジテック)領域の情報インフラ・サービスインフラを展開するLDT株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:白石和也)に譲渡。